更新日:2024/04/16 16:35
経営
BATNAとは?交渉におけるメリットや例・活用ポイントなど詳しく解説
読了まで約4分
交渉を有利に進めることで業績の向上や利益につながることがあります。しかし、利益を求めるだけの交渉は相手にとって望ましいものではなく、継続的な関係性の構築は実現できません。そこで互いが納得する形で交渉を実現するための概念としてあるのがBATNAです。
本記事では、お互いが有益な交渉を進められる手法としてBATNAの概要を解説した上で、メリットや例、活用ポイントなどについて紹介します。人材育成に携わる経営者や企業の代表者はぜひ参考にして下さい。
目次
BATNAとは
BATNAのメリットや活用ポイントを知る上で、まずはBATNAの読み方や意味について確認しましょう。
BATNAの読み方
BATNAとは「Best Alternative To a Negotiated Agreement」の略称で、「バトナ」と読みます。直訳すると「交渉で合意することに次ぐ最善の代替案」です。第一希望で合意できなかった場合に備えて用意しておく二番目の案を指します。
本来、交渉は第一希望で合意できれば成功です。ただし、必ずしも第一希望が通るとは限りません。そこで、第一希望が通らず交渉が決裂してしまった時に備え、第一希望ほどではないものの利益を得られる代替案をあらかじめ用意しておく必要があります。
この第一希望に次ぐ利益を得られる代替案を用意しておく手法がBATNAです。
BATNAの意味
BATNAは交渉のさまざまな場面で必要となるテクニックの一つです。交渉は相手の都合もあるため、自分の都合だけを押し付けてもうまくいかないでしょう。したがって、最大の利益となる案を提示する際、その案が通らずに交渉が決裂した場合も想定しておく必要があります。
双方が合意できる案を検討するだけではなく、合意できなかった場合についての案も用意しておけば、余裕をもって交渉に臨めるようになるでしょう。
「BATNA」を理解しておけば、交渉が成立しなかった際、相手がどう行動するのかをあらかじめ見極め、自分たちがどう動くべきかを決められます。
BATNAをビジネスで活用する例
BATNAをうまく活用すれば、交渉決裂を避けて双方にとって有益な取引が可能です。そこで実際の採用活動でBATNAを活用する例を紹介します。
業務に必要な資格を持った人材を雇用したい企業に対し、求職者Aさんと求職者Bさんが最終面接に進んだとします。それぞれが希望する条件と資格や経験は以下の通りです。
求職者Aさん:十分な業務経験があり、資格も取得している。条件として企業が提示する年収700万円に対し750万円を求めている
求職者Bさん:業務経験はないが、資格は取得している。条件として企業が提示する年収700万円を希望している
この場面において、企業のBATNAのポイントは求職者Bさんです。求職者Aさんと交渉を行い年収条件で求職者Aさんが譲らなかったとしても候補の一人として、BATNAである求職者Bさんがいるため、無理に求職者Aさんの条件に合わせる必要はありません。
したがって企業は有利に交渉を進められるのです。うまく交渉を重ねるうちに、業務経験と資格を持つ、求職者Aさんが企業が提示する年収700万円で合意する可能性も考えられます。
BATNと関連する用語
BATNAをより効果的に活用するには、BATNAに関連する用語の理解も欠かせません。ここでは、RVとZOPAについて解説します。
RV
RVとは「Reservation Value」の略称であり「留保価値」という意味です。交渉を行う上で自らが決めた最低条件を指します。例えば、ある製品を製造するのに必要な部品の価格交渉でA社から1,000個で100万円と提示された場合、次のB社と交渉する際の留保価値は1,000個で100万円です。
ただし、RVは単純に価格だけではなく、複数の利害関心を絡めて判断するケースも少なくありません。例えば、B社は1,000個で150万円を提示したものの、A社よりも納期を早められる場合、B社の提示でも受け入れる可能性があります。この場合での留保価値は価格ではなく納期の早さです。
ZOPA
ZOPAとは「Zone Of Possible Agreement」の略称であり「合意可能領域」という意味で、自社と交渉相手、双方が考えるRV(留保価値)の範囲を示すものです。
例えば採用活動において求職者が求める年収651万円から750万円に対し、企業が用意できる年収が600万から700万円だった場合、651万円から700万円がZOPAになります。
ここでは、採用時の年収交渉でBATNAを使う際、ZOPAを知ることで契約成立につながった例を見てみましょう。ただし、企業は交渉初期段階では求職者のRVを知りません。
求職者Aさんは、業務に必要な経験はないものの資格があるため、750万円の年収を希望しています。これに対し企業が提示できる年収は700万円です。このままでは双方の妥協点が交わらず交渉は成立しません。
企業は求職者Aさんと交渉を進めていく中で、Aさんの前職の年収が650万円であることを知ります。これが今回の交渉におけるBATNAのポイントです。
企業はBATNAを活用し、前職よりも高い年収を提示し、条件を満たすことで希望年収を確約すれば合意するのではと予測しました。つまり求職者Aさんは750万円を希望しているものの、651万円がRVだと考えたのです。
そこで、入社時は年収700万円とし、業務経験を積んでいけば750万円に昇給できるということを提示しました。最終的に双方が納得する形で交渉成立につながるケースです。
BATNAを準備して交渉するメリット
交渉を行う際、BATNAを準備しておくことで得られる主なメリットは、余裕を持って交渉できる点、そして有利に交渉を進められる点です。ここでは、それぞれについて解説します。
交渉に余裕ができる
採用活動や価格交渉を行う際、仮に第一希望が実現しなくてもそれに次ぐ利益を得られるBATNAがあれば、余裕をもって交渉を進められます。
交渉の中で第一希望が通らない場合、冷静な判断ができないまま相手の要求をそのまま受け入れてしまうケースも少なくありません。
しかし、BATNAがあれば無理に相手の要求を受け入れる必要もないため、焦らずに交渉を進められます。
交渉を有利に進められる
BATNAをあらかじめ準備しておけば、仮に交渉がうまくいかず決裂しそうになったとしても最適な代替案があるため、不利な条件で無理に交渉成立させる必要がありません。その結果、有利なポジションで交渉を進めていくことが可能です。
また、BATNAがあることで、どうしても自社にとって有利な条件での交渉が難しければ交渉を中止するという選択肢も持てます。交渉は選択肢が多いほど有利に進められるため、あらかじめBATNAを準備しておくことは、大きなメリットといえるでしょう。
BATNAを活用する3つのポイント
BATNA活用のメリットを生かすには、主に3つのポイントがあります。それは次の通りです。
・交渉する前に多くの情報を得る
・BATNAを相手に明かさない
・交渉前の準備をする
ここでは、それぞれについて具体的に解説します。
1.交渉する前に多くの情報を得る
BATNAを活用する上で最も重要なポイントは、できるだけ相手の情報を多く得ることです。例えば、価格交渉の前に市場調査を行い競合の価格を把握しておく、採用活動で一次面接の段階で年収や希望職種などを聞いておくなどが考えられます。
事前にできるだけ多くの情報を得ていれば、交渉の選択肢が増え、余裕を持って有利に交渉を進められるようになるでしょう。
2.BATNAを相手に明かさない
BATNAを活用すれば有利に交渉を進められるようになります。しかし、BATNAを相手に知られてしまうと不利になってしまうため、相手には明かさないようにしなくてはなりません。
例えば価格交渉で1,000個、120万円で提示してきたA社をBATNA とし、B社に対し1,000個100万円で交渉するとします。この時、B社にA社の提示価格を知られてしまえば、100万円では交渉に応じてくれないでしょう。
BATNAがあると思い余裕を持ち過ぎると相手にBATNAの存在を気付かれてしまい、交渉を有利に進められなくなる可能性が高まるので注意が必要です。
3.交渉前の準備をする
BATNAを活用するために必要な項目を洗い出し、チェックシートを作成しておきましょう。具体的にはチェックシートに以下のような項目を用意します。
・今回の交渉におけるBATNAはなにか
・RVの設定をしたか
・交渉する相手のBATNAを予測できるか
・今回の交渉の重要度(取引相手も含む)を理解しているか
・今回の交渉でWin-Winになるための条件を用意しているか
・今回の交渉の成果で何を得られるかを理解しているか
・交渉が成立しなかった場合、その後の業務にどのような影響が考えられるかを理解しているか
これらの事前準備をしておくことで、有利に交渉を進められる可能性を高められるでしょう。
BATNAの活用は有利な交渉につながる
BATNAとは、「Best Alternative To a Negotiated Agreement」の略称で、「交渉で合意することに次ぐ最善の代替案」という意味です。採用活動や取引先との商談の他、事業提携、M&Aなどさまざまな交渉で活用できます。
BATNAを活用するメリットは、余裕を持って相手との交渉に臨めることです。また、交渉が成立しなくても次の案があるため、有利に交渉を進められるのもメリットといえます。ただし、交渉前の準備や情報収集を入念に行い、相手にBATNAを知られないようにする交渉術など成果を上げるにはいくつかのポイントをしっかりと抑えることが重要です。
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執筆者情報
佐藤 義昭 / 株式会社武蔵野 常務取締役
1971年、東京都生まれ。
1990年、武蔵野にアルバイトとして入社、ダスキン事業から新規事業まで経験。
2007年、経営サポート事業本部の本部長を経て2015年11月取締役に就任。
2021年、6月常務取締役に就任。
経営者向けに年間100回以上の講演実績があり、企業文化を強化する経営計画書作成法を伝授。
年に一度行われる社内経営計画書アセスメントの方針作りや、小山昇の実践経営塾の合宿では、経営者向けに経営計画書作成や短期計画作成を支援している。
おもな講演テーマに『経営計画書を作るには』、『手書きによる短期計画作成方法』などがある。
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