更新日:2023/10/26 12:50
経営
【事例あり】ビジネスモデルキャンバスとは?作り方の例をもとにわかりやすく解説
読了まで約4分
ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスの構造を見える化したフレームワークの1つです。
自社のビジネスモデルの優位性、競合他社よりも劣っている部分、課題や弱点などを明らかにし、隙のないビジネスモデルを生み出すことに活用されます。
本記事では、ビジネスモデルキャンバスの目的や活用方法、書き方などをわかりやすく解説していきます。
具体例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
ビジネスモデルキャンバスとは
まずはビジネスモデルキャンバスの概要、目的、活用方法について触れた後、類似用語として使われる機会が多いリーンキャンバスとの違いを解説します。
ビジネスモデルキャンバスの目的・活用方法
ビジネスモデルキャンバスは事業構造を整理し、9つの構成要素(※)によって可視化したフレームワークです。
Strategyzer創設者のアレックス・オスターワルダー氏と、ローザンヌ大学(スイス)教授であるイヴ・ピニュール氏によって開発されました。
主に既存ビジネスの改善で用いられるケースが多く、現在の事業モデルの優位性や課題を洗い出すことで、競合他社よりも有利なポジションを把握できます。
また、新規事業を創出する際に用いられるケースもあり、説得力のあるビジネスモデルキャンバスを明示することで、社内外のステークホルダーから理解を得られる可能性があります。
このようにビジネスモデルキャンバスは、事業モデルを直感的に把握できるツールとして多数の企業で活用されており、自社の競合優位性や弱みの把握、顧客に提供できるバリューの発見などの効果が期待できます。
※【ビジネスキャンバス・9つの構成要素】
1.顧客セグメント(CS)
2.価値提案(VP)
3.チャネル・販路(CH)
4.顧客との関係(CR)
5.収益の流れ(RS)
6.主要リソース(KR)
7.主要活動(KA)
8.パートナー(KP)
9.コスト構造(CS)
リーンキャンバスとの違い
リーンキャンバスは、ビジネスキャンバスとよく似たフレームワークです。
ビジネスモデルを可視化する目的があり、新規ビジネスを企画する際、より効果的な手法と言えます。
ビジネスモデルキャンバスと同じく、ビジネスモデルを9つの要素に分けて考えるフレームワークです。
『Runnnig Lean』の著者であるアッシュ・マウリャ氏によって提唱されました。
構成要素が9つという点はビジネスモデルキャンバスと同じですが構成要素の内容に多少異なる部分があります。リーンキャンバスには、アーリーアダプター(最初に顧客になってくれる人物像)の存在を記載することです。
したがって、リーンキャンバスは、顧客との関係・チャネル・顧客セグメントの内容を深めた手法と言えます。
このようにリーンキャンバスは、顧客に関してはビジネスモデルキャンバスより詳しく整理しやすいものの、コストに関してはビジネスモデルキャンバスよりも精度が低い側面があります。
また、主に既存事業に活用されることが多いビジネスモデルキャンバスに対して、リーンキャンバスは新規事業に向いたフレームワークと言えるでしょう。
ビジネスモデルキャンバス作成のメリット
ビジネスモデルキャンバスで得られる4つのメリットについて解説します。
フォーカスすべきポイントが明確になる
数十ページにもわたる分厚い事業計画書と異なり、一枚のフレームワークに簡潔にまとめられるため、事業家自身もフォーカスすべきかを検討しやすくなります。
ビジネスモデルの共有が容易になる
ビジネスモデルキャンバスは、図でわかりやすく表されています。
そのため、ビジネスモデルの概要を誰でも簡単に理解することができ、社内外の関係者と共有するのに最適なツールになっています。
競合他社の分析に使える
ビジネスモデルキャンバスは自社だけでなく、競合他社の分析にも効果的です。競合他社と自社のビジネスモデルキャンバスを作成し、違いや特徴を比較することで自社の商品開発やビジネスモデルの改善に役立てることができます。
顧客ニーズに応じた事業を考えられる
顧客ニーズに寄り添った事業を考案できることもメリットです。顧客との関係性をどのように築くかによって、ビジネスの収益は変わってくるため、「顧客との関係」の項目で顧客とどのような関係を構築するか検討しましょう。
ビジネスモデルキャンバスの作り方・書き方
ビジネスモデルキャンバスの作り方として、ビジネスの核となる要素を9つに分けて考えます。どの要素から埋めてもかまいませんが、ここでは顧客セグメントから初めて価値提案、キーリソース、主要活動、主なパートナー、顧客との関係、チャネル、コスト構造、収益の流れの順に見ていきましょう。
顧客セグメント
「どのような人に価値を提供したいのか」「最重要な顧客はどのような人なのか」を記します。
自社にとってのメイン顧客だけではなく、幅広いターゲット設定がポイントです。
具体例として、資格取得の対策講座を提供しているスクールで考えてみます。
通信講座以外にも、各地方校で通学講座を開講しているスクールです。
その場合の顧客セグメントとして考えられる内容は以下です。
- 資格取得によって勤務先の会社でキャリアアップしたい会社員
- 資格取得によって転職し、年収を上げたい会社員
- 合格済みの資格を活かすために2つ目の資格が欲しい会社員
- 将来的に資格で独立起業したい会社員
- ビジネスに役立つ資格が欲しい自営業者
- 業務の守備範囲を広げるためにダブルライセンスを狙っている士業者
- 資格を取って就職したいと考えているフリーター
- 就職活動を始める前に役立つ資格を取りたい大学生
- 家事の合間に趣味で勉強がしたい主婦
- 定年後の生活で新たなチャレンジがしたい高齢者
価値提案
設定した顧客セグメントに対して「どのような価値を提供するのか」「どのような問題を解決に導くのか」を記します。
その際は新規性や効率性、最適性、ブランド、コスト、便利さなどを考慮すると良いでしょう。
具体例は以下のとおりです。
- 忙しい会社員や自営業者でもスマートフォンで勉強できる通信講座
- 忙しい会社員や自営業者でも通いやすい土日の通学講座
- 時間に余裕がある学生やフリーターがWebで勉強しやすい通信講座
- 時間に余裕がある学生やフリーターが平日に通える通学講座
- 主婦が隙間時間で勉強できる通信講座
- 高齢者でも無理なく勉強できるDVD通信講座
キーリソース
「顧客への価値提供で必要な資産は何か」を記します。
代表的な資産には、自社が保有する資材、機械、知的財産、人的資源などがあります。
ここでは先述した資格スクールの主なリソースを挙げてみます。
- 資格講座のベテラン講師
- 資格講座の新人講師
- 講師研修システム
- 本校の事務局スタッフ
- 各地方校の事務局スタッフ
- 質問に対応するスタッフ
- 講座運営ノウハウ
- 教材作成ノウハウ
- 模試や答練の問題作成ノウハウ
- インフラ(本社・地方校)
- 大手資格スクールというブランド
主要活動
「顧客に価値を提供するための主要な活動は何か」を記します。
商品開発、市場調査、人材採用などの重要な要素にフォーカスすると良いでしょう。
具体例は以下のとおりです。
- 新人講師の採用と育成
- ベテラン講師向けの研修
- 本校、地方校スタッフの採用
- 既存講座の見直し
- 新規講座の開発
- 各講座の模試、答練の問題作成
- 講義撮影システムの構築
- Web受講体制の構築
- マーケティング(新規受講生の集客)
主なパートナー
自社のビジネスモデルに欠かせないパートナーを記します。
主にお金を支払う外部と考えると良いでしょう。
具体例は以下のとおりです。
- 資格講師
- チラシ、ポスター制作会社
- 社内オンラインシステム開発会社
- Web講義システム開発会社
- 教材の運送業者
- 経営コンサルティング会社
- 大学
- 専門学校
- 書店
顧客との関係
「顧客とどのような関係性を築くか」「顧客が期待している事柄は何か」を記します。
段階や目的によっても異なりますが、主に対面、電話、メールなどの手段があるでしょう。
- 講座に申し込んだ受講生のもとに素早く教材が届く体制
- 通学生が欠席した際のフォローシステム
- 通学生向け自習室の完備
- 通信生に孤独を感じさせないオンラインコミュニティの提供
- 通信→通学、通学→通信の乗り換えシステム
- 質の高い資格講義の提供
- 洗練された動画講義の提供
- オンラインで学習履歴を確認できるシステムの提供
- 受講生からの質問に電話やメールで素早く答えるフォローシステム
チャネル
「顧客に対してどのように価値を届けるのか」を記します。
コミュニケーション手段、流通方法、販売チャネル、販売後のアフターサービスなど、顧客に商品やサービスを提供するルートを考慮して設定しましょう。
- 本校ホームページ
- 地方校ホームページ
- Facebookページ
- YouTube
- スマートフォンアプリ
- 各講座のパンフレット
- 各講座のポスター
- 試験会場でのチラシ配布
- 試験会場での小冊子(解答速報)配布
- 資料請求者へのテレフォンアポイントメント
- 過去の受講生への電話営業
- 受講生からの紹介
- 書店との提携
- 大学生協との提携
- 無料体験講義
- 無料ガイダンス講義
- 個別ブースでの無料相談
- 合格祝賀会
コスト構造
「コストはどのくらい発生するのか」を記します。
主なコストには人件費、経費、インフラコスト、マーケティングコストなどがあります。
- 正社員、契約社員、派遣社員の給与
アルバイト、パートの給与 - 資格講師への報酬
- ゲストスピーカーへの報酬
- 教材製作費
- チラシ、ポスター制作費
- 社内オンラインシステムの導入費用
- Web講義システムの導入費用
- 教材の運送代金
- パンフレットを設置する書店との提携費
- 大学生協や専門学校との提携費
- 経営コンサルティング会社へのコンサルティング費用
- 本校ビルの維持費
- 地方校のテナント代
- インターネット広告費
- コンプライアンスに関する費用
- 税金
収益の流れ
「顧客がどのようなものにお金を支払っているのか」「どのような支払い形式で払っているのか」を記します。
自社の商品・サービスのラインナップや課金方法の洗い出しがポイントです。
【顧客が支払うお金】
- 各講座の初心者向けインプット講座
- 各講座の初心者向けアウトプット講座
- 各講座の初心者向けインプット+アウトプットのセット講座
- 各講座の中上級者向けインプット講座
- 各講座の中上級者向けアウトプット講座
- 各講座の中上級者向けインプット+アウトプットのセット講座
- 全国模擬試験
【顧客の支払い形式】
- 現金
- クレジットカード
- 教育ローン
ビジネスモデルキャンバス作成のポイント
ビジネスモデルキャンバスを成功させるための作成ポイントを3つご紹介します。
シンプルにまとめる
すべての要素を書き込むと、キャンバスを共有した際に理解しにくい状態になりかねません。情報量をおさえて簡潔にまとめると、直接的でイメージしやすくなるため、シンプルな作成を意識しましょう。
最初から時間をかけすぎない
ビジネスモデルキャンバスの利点の一つは全体像を把握することにあります。最初のブロックの作成に時間をかけずに、さっと全体を作成し、慣れてきたら精度を上げていきましょう。
要素をすべて埋める
ビジネスモデルキャンバスは、複数の要素が相互に関係する構造になっているため、一つの要素でも空白になっていると構成できません。一つでも抜けがあると、それだけ信頼度が落ちます。もしどうしても埋めにくい箇所があれば、仮の情報でも良いので埋めておきましょう。
ビジネスモデルキャンバス作成後の施策
各要素を検証する
ビジネスモデルキャンバスを作成した後は、実際に各要素を検証してみることが重要です。特に「顧客セグメント」と「価値提案」については、実際の顧客にヒアリングを行い、ギャップが生じないように修正していく必要があります。
社内で共有する
作成したビジネスモデルキャンバスは、社内で共有することが大事です。せっかく作成したのに、社内で共有されなければ宝の持ち腐れになります。社内で公開し、広くアナウンスするなどして共有する必要があります。
必要に応じて更新する
ビジネス環境は常に変化しているため、ビジネスモデルキャンバスの情報が古くなる可能性があります。新製品の開発や収益の変化、競合他社・マーケットに変化があった時などに更新していきましょう。
【事例】コンビニカウンターコーヒーのビジネスモデルキャンバス
ここまで資格スクールのビジネスモデルキャンバスを例に解説しましたが、最後に事例として、コンビニカウンターコーヒーのビジネスモデルキャンバスを説明します。
コンビニのカウンターコーヒーはコンビニ各社が力を入れているビジネスの1つです。
カフェ業界にも大きな影響をもたらしています。
【顧客セグメント】
- コンビニを利用するコーヒー好きな顧客
【価値提案】
- 安価で手軽に買えるコーヒー
- 少ない待ち時間
- 缶コーヒーよりも高いクオリティ
- カップのデザイン性
【キーリソース】
- コーヒーを提供する機器類
- 購買データ
【主要活動】
- 機器類のメンテナンス
- コーヒー豆の仕入れ
- 売上データの分析
【主なパートナー】
- 機器類の製造会社
- コーヒー豆の仕入れ先業者
- カップやストローなどの製造業者
【顧客との関係】
- 費用対効果に優れている
- テイクアウトが前提にある
【チャネル】
- コンビニの各店舗
【コスト構造】
- コーヒー豆の仕入れ代
- 機器類のメンテナンス費用
【収益の流れ】
- 1杯100円台のコーヒー
- 1杯200円台のコーヒー
- コーヒーに合うお菓子類の販売
ビジネスモデルキャンバスを自社の戦略に活用しよう
ビジネスモデルキャンバスは事業構造を設計図のように可視化できるフレームワークです。
既存ビジネスの改善以外にも、新規ビジネスを考案する際に利用されます。顧客セグメント、価値提案、キーリソースなど9つの要素を埋めることが大切です。
ビジネスモデルキャンバスの目的や書き方を理解した後に自社の業績を上げるには、武蔵野の『経営計画書』を参考にしてください。
750社を超える支援実績から導き出された独自の経営ノウハウを公開しています。
執筆者情報
佐藤 義昭 / 株式会社武蔵野 常務取締役
1971年、東京都生まれ。
1990年、武蔵野にアルバイトとして入社、ダスキン事業から新規事業まで経験。
2007年、経営サポート事業本部の本部長を経て2015年11月取締役に就任。
2021年、6月常務取締役に就任。
経営者向けに年間100回以上の講演実績があり、企業文化を強化する経営計画書作成法を伝授。
年に一度行われる社内経営計画書アセスメントの方針作りや、小山昇の実践経営塾の合宿では、経営者向けに経営計画書作成や短期計画作成を支援している。
おもな講演テーマに『経営計画書を作るには』、『手書きによる短期計画作成方法』などがある。
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