更新日:2024/04/16 16:55
経営
ガバナンスを強化するには?企業が得られるメリットや方法・事例を詳しく解説
読了まで約4分
企業の不正や情報漏えいなどが起きる要因の一つとして、ガバナンスが弱い点が挙げられます。ガバナンスを強化し健全な経営を実現させることは、不正や情報漏えい防止の重要なポイントです。ガバナンスを強化するには経営者や全ての従業員の理解が欠かせません。
本記事では、ガバナンスの意味、強化すべき理由や具体的な強化方法、強化によって得られるメリットなどについて解説します。また、実際にガバナンス強化を実現した企業の事例も紹介しますので、ぜひ参考にして下さい。
目次
ガバナンスの強化とは
企業にとってガバナンスを強化するとはどういうことなのでしょうか。ここでは、ガバナンスの意味や強化すべき理由について解説します。
ガバナンスの意味
ガバナンス(governance)とは支配や統治、管理と訳され、国や自治体などを支配し、統治もしくは管理するといった意味で使われます。
ビジネスシーンでは「健全な企業経営の実現に向けた管理体制の構築」といった意味があり、コーポレートガバナンスと呼ぶのが一般的です。
また、2021年6月に株式会社東京証券取引所が公開した「コーポレートガバナンス・コード」では、コーポレートガバナンスを次のように定義しています。
本コードにおいて、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主やお客様・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。
※引用:株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」PDF.(参照2024-02-22)
ガバナンスの強化とは組織の管理体制を整備し、内部統制を徹底することにより、株主やお客様、従業員といったステークホルダーからの信頼獲得を目的として行うものです。
ガバナンスを強化するべき理由
企業がガバナンスを強化するべき主な理由は不正や不祥事の防止です。
ガバナンスが強化できていないと、従業員による横領や情報漏えいなどの不祥事、経営者による粉飾決済指示やサービス残業の強制などが起きかねません。
また、不正や不祥事が起きても発覚するまでに時間がかかり、企業に大きな損失を与えてしまう可能性も高まります。
不正や不祥事が起きれば、企業の社会的信用が失墜し、場合によっては経営を継続できなくなるほどのダメージを受けてしまうケースも少なくありません。
ガバナンスが弱い企業は不正や不祥事が起きる可能性が高く、金銭や社会的な損失が起きやすくなります。そこで、不正や不祥事を防止し、健全な経営を実現するためにガバナンスの強化が必要となるのです。
ガバナンスを強化することで企業が得られるメリット
企業がガバナンスを強化することで得られる主なメリットは次の3つです。
・企業価値やイメージの向上
・労働環境改善による従業員の離職率軽減
・生産性や収益力の向上
ここでは、それぞれについて具体的に解説します。
企業価値・イメージの向上
前述した株式会社東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードでは、5つの基本原則を掲げており、その中の一つに「適切な情報開示と透明性の確保」があります。
具体的には自社の財務状況や経営戦略などを内外に開示し、健全な経営を行っていることを示すものです。これにより不正や情報漏えいを予防する優良企業というイメージが定着し、企業価値向上につながります。
また、企業価値が向上すれば投資家からの出資や金融機関からの融資を得られる可能性も高まるでしょう。
労働環境の改善・従業員の離職率軽減
ガバナンスの強化は株主やお客様だけではなく、従業員にも多くのメリットがあります。その一つが劣悪な労働環境の改善による従業員の離職率軽減です。
ガバナンスを強化するには、労働環境の見直しや改善を行うことが重要であり、それが従業員の離職率軽減につながります。具体的な施策は主に以下の4点です。
労働環境の見直し・改善の施策
1.多様な働き方の実現:テレワークやフレックスタイム制の導入、有休取得推進など
2.健康経営の推進:メンタルヘルス対策としての相談窓口設置、ストレスチェックの実施など
3.能力開発の支援:教育や研修制度の提供、資格取得休暇の導入、スキルアップサポートなど
4.評価制度の見直し:業績に応じた給与体系の整備、福利厚生の充実、従業員の貢献を評価する制度の導入など
生産性・収益力の向上
ガバナンスを強化するには、管理体制の整備や内部統制の徹底だけでなく、企業の経営方針を従業員に浸透させることも重要です。従業員が経営方針を理解すれば、それぞれのやるべきことが明確になり業務効率が高まります。
また、業務の効率化が進めば生産性が向上するだけでなく、従来よりもコストを押さえられるようになるため、収益力の向上にもつながるでしょう。結果的に企業の持続的な成長が実現できます。
ガバナンスを強化する施策・方法
さまざまなメリットをもたらすガバナンスの強化は、企業にとって欠かせません。ガバナンスを強化するには具体的にどのような施策が必要なのでしょうか。ここでは、企業がガバナンスを強化するために必要な施策や方法を解説します。
法令順守・コンプライアンスの徹底
ガバナンス強化において法令順守は不可欠です。法令順守ができなければ、企業の存続自体が危ぶまれるため、経営者のみならず全従業員に浸透させなくてはなりません。特に時間外労働の上限規制は2024年4月より建設業や医業などこれまで対象外だった業種にも適用されるため、注意が必要です。
参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務」(参照:2024-2-25)
また、法令順守と同時に社内規範や企業倫理などコンプライアンスの徹底も欠かせません。企業が保管する個人情報の漏えいや窃取(せっしゅ)、資金の不正使用などが発覚すれば、株主やお客様からの信頼が失われてしまう恐れがあります。法令順守とコンプライアンスの徹底は、ガバナンス強化における最重要ポイントです。
内部統制の構築と社内ルールの策定
内部統制とは、経営者が事業活動を健全に運営するため、経営層や監査役、組織、社内既定などあらゆる管理体制を適切に機能させるための仕組みです。社内ルールを策定するだけでは実際にそのルールが守られているかどうかは分かりません。
そこで、監査役会や内部監査部門が実際にルールを守って業務が行われているかどうかを監視する内部統制の構築が必要です。
内部統制の構築を適切に行うポイントとして、金融庁では次に挙げる6つの基本的要素に留意することが重要だとしています。
1.統制環境:内部統制を行うための環境を整備すること
2.課題点の評価と対応:自社の課題点を評価し、適切な対応を取ること
3.統制活動:経営者の指示のもと、各部門の内部統制担当者が社内ルールに沿って相互監視を行える仕組みを整備すること
4.情報と伝達:ITを活用し、迅速かつ正確に情報を伝達する手段を講じること
5.モニタリング:社内ルールが適切に現場に反映されているかどうかをモニタリングするための環境を整備すること
6.ITへの対応:IT活用において不正が行われないよう、内部統制をシステムに組み込み、不正使用やデータの改ざんが行われていないかどうかの監視を徹底すること
参考:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(参照:2024-02-23)
内部監査の実施と見直し
内部監査とは、企業内の独立した組織が社内倫理や規範に基づき監査を行い、適宜、経営者に報告や助言を行うものです。
ガバナンスを強化する上で内部統制が重要ではあるものの、基本的に各部門から担当者を出して行うため、業務の片手間になってしまう可能性があります。不正の見落としや担当者と従業員の共謀が起きるケースも少なくありません。
そのため、企業内であっても独立した組織として専任で行うことにより、業務の片手間になることを防ぐことが可能です。
内部監査は定期的に実施し、課題点があれば次の実施までにコンプライアンスの見直しを行うことで、ガバナンス強化につながります。
第三者視点の監視・評価体制の構築
ガバナンス強化を実現させるには、内部での監視に加え、外部の第三者視点による監視・評価体制の構築も必要です。
たとえ企業内から独立した組織であっても、内部組織によって経営層の不正を防ぐことは難しいかもしれません。第三者視点の監視であれば、経営者、従業員に関わらずコンプライアンスの徹底が可能です。
具体的な方法としては、社外取締役や社外監査役の設置が挙げられます。企業と利害関係のない人物を第三者として監視をしてもらうことで、ガバナンスの強化の実現につながります。
ガバナンスの強化に成功した企業の事例
ガバナンス強化に成功した企業の事例を紹介します。ガバナンス強化を実現させるための参考にして下さい。
食品メーカーの事例
大手食品メーカーA社では、縦割り組織により他部門同士の交流が少なく関係性が希薄になってしまう、たこつぼ化が課題でした。そこで、取締役会や経営会議において外部識者を招聘し、多様な意見を取り入れ密接な意思疎通・運営によるコーポレートガバナンス体制が実現しました。
また、監督と執行が明確に分離している会社機関設計の指名委員会を選択し、「ステークホルダーの意見を反映させる適切な執行の監督」と「迅速な業務執行」を両立させています。
電気機器メーカーの事例
ある電気機器メーカーB社では、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を実現するコーポレートガバナンスの充実・強化の継続的な取り組みを実施しました。
具体的な取り組みとして挙げられるのが、10人の取締役のうち6人を独立社外取締役として招聘している点です。さらにB社では、任意の指名と報酬委員会の長も社外取締役が担っています。
また、B社において社外取締役は後継者育成計画においても欠かせない存在です。執行役員や執行役員候補者が経営会議で討議した戦略を社外取締役が閲覧できるため、組織的に後継対象者が社外取締役の目に触れる運営を実現しています。これが結果的にガバナンス強化にもつながっています。
ガバナンスを強化し企業の発展につなげよう
健全な経営によって企業を発展させるにはガバナンス強化が欠かせません。また、企業価値やイメージの向上、労働環境の改善による離職率軽減、生産性や収益力向上などガバナンス強化により多くのメリットを得られます。
ただし、経営者だけが意識してもガバナンス強化を実現させるのは難しいでしょう。従業員に対しガバナンス強化の重要性や効果を浸透させていくことが重要になります。
そこでおすすめしたいのが武蔵野の経営計画書です。武蔵野の経営計画書は、会社の数字や方針、スケジュールなどをまとめたルールブックです。携帯しやすい手帳型サイズなので、常に確認することで会社(=社長)の価値観やルールの浸透が進み、ガバナンス強化にも効果的です。
株式会社武蔵野では、経営計画書の活用方法を無料で提供しています。ガバナンス強化を検討している際はぜひ、お気軽にお試し下さい。
執筆者情報
佐藤 義昭 / 株式会社武蔵野 常務取締役
1971年、東京都生まれ。
1990年、武蔵野にアルバイトとして入社、ダスキン事業から新規事業まで経験。
2007年、経営サポート事業本部の本部長を経て2015年11月取締役に就任。
2021年、6月常務取締役に就任。
経営者向けに年間100回以上の講演実績があり、企業文化を強化する経営計画書作成法を伝授。
年に一度行われる社内経営計画書アセスメントの方針作りや、小山昇の実践経営塾の合宿では、経営者向けに経営計画書作成や短期計画作成を支援している。
おもな講演テーマに『経営計画書を作るには』、『手書きによる短期計画作成方法』などがある。
この記事を読んでいただいている方におススメのセミナー