更新日:2023/01/30 13:00
評価制度
評価制度とは?目的や種類・事例や作り方のポイント
読了まで約5分
評価制度とは人事評価制度とも呼ばれる人事制度の一つです。
社員の能力や企業に対する貢献度を評価し、社員を育成するための指標とします。
評価制度は、等級制度や報酬制度と連動させ、評価が上がれば等級や報酬も上がる仕組みにするのが一般的です。
評価制度が上手く機能しないと、能力や貢献度の高い社員の等級や報酬を上げられず、モチベーション低下の要因になってしまうでしょう。
本記事では、これから評価制度を導入したい企業や古い評価制度を見直したい方に向けて、評価制度の目的や種類、作り方についてお伝えします。
適切な評価制度の導入により社員のモチベーションアップを促し、生産性向上を実現させましょう。
目次
評価制度とは
評価制度とは、自社の社員を評価する人事評価制度の一つで、社員の能力やスキルをはじめ企業に対する貢献度合いなどを評価します。
評価制度を英語で表現すると、「rating system」となります。
評価の英語表現には、evaluation・assessment・ratingの3種類があり、どれも評価の意味ですが、ニュアンスがそれぞれ異なります。
evaluation:人・モノの価値を見積もる
assessment:人・環境などの価値を客観的に評価する
rating:人・モノに対して格付けを行う
一般的な会社では、直属の上司や人事担当者が部下と面談を行い、評価が決まります。
人事評価制度には評価制度のほかに等級制度と報酬制度があります。
等級制度とは評価制度によって評価した社員の能力や職務内容から、企業内でどのような役割を与えるかを区分化する制度です。
報酬制度は評価制度の評価に対し、どの程度の賃金を与えるかを決めるものです。
3つの制度が機能することで社員の評価を決定していきます。
ただし、評価制度は等級や報酬のように具体的な数値が見えづらいため、明確な基準を定めてから評価を進めないとトラブルが起きやすいものです。
できる限りの曖昧さを排除した評価制度を作ることが重要といえます。
評価制度の導入目的
評価制度を導入する目的を業績、処遇、配置、育成の4つの視点で解説します。
業績
社員が経営方針や企業文化、ミッションなどを深く理解し自発的に行動することで、自身の能力を業績向上に活かせるようになることが評価制度の目的です。
ただし、評価制度の評価項目は能力や業績結果だけに限定しない方がよいでしょう。
企業に対する貢献度も含めて設計することで、社員の帰属意識やモチベーションを高めながら、業績向上につなげることができます。
処遇
給与、報酬、賞与、昇格などの処遇を決定するのも評価制度の重要な目的です。
上司の主観的な評価によって適正な処遇決定ができなければ不公平感が生まれ、企業へ貢献したいというモチベーションも下がってしまいます。
昇給・昇進の目安を具体的にすることで、従業員は自分が会社からどのような役割を求められているのかをしっかり把握することができ、自社への帰属意識にもつながり、企業と従業員との間で信頼関係を構築できます。
評価制度は全社員を同じ基準で評価し、不公平感のない処遇を決定することを目的としています。
適正な処遇ができれば、社員のモチベーションを下げずに業績向上にもつなげていけます。
配置
適切な人事配置を行うことも評価制度を導入する目的の一つです。
評価制度がなければ、上司の主観や感覚で行き当たりばったりの人事評価が行われてしまうでしょう。
評価の過程で一人ひとりの能力、価値観、適性や社内状況を可視化しながら人事配置を行うことが重要です。
育成
適正な処遇、配置の実施により社員の成長を促すのも評価制度の目的です。
社員は自身の能力や貢献度に見合った処遇、配置がなされなければ不満を感じやすいものです。
反対に、自身の努力をしっかり認めてもらえて適正な処遇や配置を実感できれば、社員の企業に対する満足度が向上し貢献意欲が高まるでしょう。
適正な評価が行われているという土台がなければ、人材育成は難しくなります。
評価制度の種類
代表的な評価制度には「MBO(目標管理制度)」「コンピテンシー評価」「360度(多面)評価」の3つが挙げられます。
それぞれの評価制度の概要や特徴、導入が向いている企業、導入時の注意点や企業事例などを説明します。
MBO(目標管理制度)
MBO(目標管理制度)とは、企業の目標に従って社員自らが設定した目標に対して達成度を評価する制度です。
MBOはManagement By Objectivesの略称で、日本語では「目標による管理」と訳されます。
MBOは「必ず社員本人が目標の設定をすること」が特徴です。
社員本人が目標を設定する理由としては、責任感を持って目標に向かっていけるよう促す点にあります。
自身が目標設定をすることで自主性が芽生え、成長につなげていけるのがMBOの特徴です。
社員の自主性を育て成果を上げることを重視する制度のため、比較的規模が大きく新規事業の立ち上げや海外進出などを目的にリーダー育成をしたい企業に向いています。
MBOを導入している企業例としてはグリー株式会社が挙げられます。
同社では半期ごとに社員が目標を設定しますが、達成基準を5段階に分け評価することで達成度を数値で確認できるようにしています。
コンピテンシー評価
コンピテンシー評価とは、高い成果を上げている社員の行動特性を基に評価項目を設定し評価する制度です。
コンピテンシー評価の特徴は、成果を上げる社員がどのような行動を取っているかを分析し、具体的な項目とすることで成果を上げられる要因を可視化できる点にあります。
評価項目の設定により、経験や勘に頼らない育成が可能です。
企業の成長や市場の変化があれば、成果を上げるための行動特性も変わってきます。
常に適正な評価をするには、定期的にロールモデルの変更や評価項目の見直しが必要です。
コンピテンシー評価はロールモデルとなる人材が必須となるため、立ち上げたばかりや適切な人材がいない企業での導入は難しいでしょう。
ロールモデルとなる人材が一定数以上いる企業で、人材育成の効率化を目指している企業に導入がおすすめです。
コンピテンシー評価を導入している企業例としては、楽天グループ株式会社が挙げられます。
同社が成功の5つのコンセプトとして定義している「楽天主義」のなかで求められる11個の要素を評価軸に社員を6つの格付けに分類し評価しています。
360度(多面)評価
360度(多面)評価とは直属の上司だけではなく同僚、部下、他部署の社員などが多面的な角度から評価を行う制度です。
360度評価の特徴は、上司だけでは見えていない強みや弱みの発見や客観的な評価を行える点にあります。
評価される社員としても一人の主観ではなく、多くの社員からの評価を得られるため、結果に対して納得感を得やすくなるでしょう。
ただし、評価基準を明確にしておかないと逆に納得感が薄まってしまい、モチベーションの低下につながるリスクもあります。
また、360度評価は、上司以外の多くの社員が評価をするため上司のマネジメント能力も問われます。
まだ規模が大きくない企業で、役職者のマネジメント能力を向上させたい場合におすすめの制度です。
360度評価を導入している企業例としては、株式会社ディー・エヌ・エーが挙げられます。
同社では、マネージャーの能力を上げることが社員の能力を引き出すために重要だと考え、マネージャーに対して360度評価を導入しています。
360度評価について詳しくはこちらの記事をご参照ください。
【例文あり】360度評価とは?意味や目的・メリットデメリットなど詳しく解説
評価制度を取り入れている企業の成功事例
ソフトバンクグループ株式会社
ソフトバンクは、子会社数が1,300社を超えるグループで、各グループ企業にふさわしい評価制度を調整しつつ、ソフトバンクの基本指針である「実力主義」などの要素をすべての子会社内に盛り込んでいます。
「ミッショングレード制」「役職バトンタッチ制」「フリーエージェント制」「ジョブポスティング制」といった独自の制度を導入しています。
サイボウズ株式会社
サイボウズは、「100人いたら100通りの働き方があってよい」という考え方の元、従業員それぞれが望む働き方を実現できるようにしています。
「個人の幸福度」と「チームの生産性」のバランスが取れていることを、給与評価の理想とし、社員は自分が希望する条件とその優先順を会社に伝えます。
会社は、社員の社外的価値と社内的価値を加味し、給与を決定しています。
株式会社メルカリ
フリマアプリを運用するメルカリは、人事評価制度に「OKR(定量評価)」と「バリュー評価(定性評価)」を採用しています。
OKRは3か月に1度データを基に見直し、さらに半年に1度各チームのOKRを共有し理解を深めるための合宿を実施しています。
全社的なOKRも、経営陣のみで決めるのではなく、社員も参加する合宿で議論し決定します。
トップダウンでなく全員で意思決定をし、チームとしてのコミュニケーションツールとしてOKRを活用しています。
株式会社ディー・エヌ・エー
インターネットやAIを活用し、モバイルゲーム開発・配信や、SNS運営、電子商取引サービスを行うディー・エヌ・エーは、半期に一度のサイクルで人事評価を行っています。
「成果(業績)」と「発揮能力(成長度合い)」の2軸で決まり、「成果(業績)」はボーナスに、「発揮能力(成長度合い)」は基本給へと分かりやすく反映される仕組みになっています。
また、約130名のマネージャー向けに実名での「360度評価」を行っています。
360度評価は通常無記名で行われることが多いのですが、マネージャーとメンバーとの信頼関係を構築するため、あえて実名で行っているそうです。これはあくまでも評価方法ではなく、フィードバックを目的として行われています。評価が給与へ分かりやすく反映される仕組みと、評価内容の透明性が従業員のモチベーションアップにつながっている事例といえるでしょう。
評価制度の最新トレンド
「働き方改革」などの多様な働き方や個人の働き方を尊重する現代において、評価制度はさまざまなトレンドが誕生しています。
近年の人事評価をめぐる世界的なトレンドとしては、評価期間をできるだけ短くし、考課の細かいレーティングを廃止、フィードバックの内容に重きを置く、といったグローバル企業が増加中です。
実際にレーティングを廃止した企業には、良い影響が見られるという事例が報告されています。
ただ、評価制度のトレンドを導入する際には、他の企業が成功しているからという安易な考えで取り入れるのはやめましょう。
社内に混乱や戸惑いが生じ、従業員の負担を増やしてしまったり、業績の低迷につながったりする恐れもあります。
また、米系企業と日本企業ではマネジメントの考え方や土壌が異なります。
安易にトレンドを取り入れるのではなく、自社の風土やビジョンにマッチするかどうかをしっかり考えましょう。
評価制度の作り方
評価制度は経営計画とリンクさせる必要があるため、経営計画の策定前に作ります。
具体的な作り方は企業によっても異なりますが、次の4つのステップで進めていくのが一般的です。
1.企業理念やビジョンなどを明確にします。
評価制度は、企業に対する貢献度も需要な要素となるため、貢献度の基となる企業理念やビジョンを明確にしましょう。
2.「MBO(目標管理制度)」「コンピテンシー評価」「360度(多面)評価」から自社に合った制度を選択した上で評価基準を策定します。
企業規模や自社の直近の課題を明確にし、課題解決にもつながる制度を選択しましょう。
3.評価制度に紐づく等級制度や報酬制度の整理をします。
処遇や賃金、役割が評価制度の評価と適正に釣り合うように注意することが重要です。
4.評価制度の運用ルールを策定します。
選択した制度にもよりますが「年に何回、評価を行うのか」「評価基準の見直しの間隔はどうするのか」などを明文化しましょう。
評価制度導入の流れ
上記の手順に従い作成が出来たら、いよいよ実際に導入・運用を開始します。
導入までのスケジュールは、半年~1年程度を見ておくとよいでしょう。
まずは評価シミュレーションを実施します。
評価する人が実際に評価を行い、評価結果に基づいて処遇を決定します。
シミュレーションを行うことで、評価の公正性を確認することができます。
次に社員へ向けた説明会や評価者へ向けた研修を実施します。
従業員への周知は、評価制度を導入する上では欠かせません。
評価制度やルールを公表し、評価制度に対する疑問を解消することが必要です。
また、評価者に対しても研修を実施することで、評価者が公正な評価を行うことができるようになります。
人事評価導入の際に起こったミスは、離職率の増加に繋がりかねます。
「正しい人事評価が受けられない」「不平等」といった不満が募れば従業員のモチベーションは失われ、優秀な人材の流出に繋がることになりかねません。
慎重に導入を進めましょう。
評価制度の運用ポイント
評価制度が上手く運用できないまま形骸化してしまう企業は少なくありません。
運用しているが「評価業務が重くて負担」「従業員のモチベーションに繋がらない」「納得が得られない」といった課題を抱えている場合は、業務フローや現行評価制度の問題点を見直してみましょう。
そこで運用面のポイントとして、次の3つを意識しましょう。
1.社員への説明・周知不足はないか
2.市場や事業形態の変化に制度が柔軟に対応しているか
3.評価制度を作る際に社員の意見を十分にヒアリングしたか
評価制度の運用を成功させるには、社員にアンケートをとって耳を傾けることはもちろん、市場や事業形態の変化に迅速に適用していく柔軟性が求められます。
また、評価基準を経営計画とリンクさせ、一貫した軸を持って制度を作ることも重要です。
社員に対し経営計画を用いた説明・周知の徹底が、運用の成功に高い効果を発揮します。
評価制度を見直すなら経営コンサルの武蔵野へ
評価制度は社員の評価を決定するための人事評価制度の一つで、企業が成長を持続させるために欠かせない制度です。
目標の基準が不明確だったり、評価者のフィードバックが曖昧な場合には、企業と従業員の間にある信頼関係は簡単に崩れていってしまいます。
ただし適切に運用ができれば、企業の業績向上に好影響をもたらすことは間違いありません。
導入を進める際には「企業理念やビジョンの明確化」「複数ある制度から自社に合った制度の選択」「評価基準を決め、等級制度や報酬制度との紐づけ」「運用ルールの策定」といった流れで進めていきます。
他社の成功事例を参考にしながら自社に最適化された制度を設計し、導入しましょう。
社員は企業にとっての財産であり、社員の評価を行う評価制度は企業の根幹をなす重要な制度のため、経営計画とのリンクが必須です。
評価制度とリンクした経営計画の策定を行うには、外部の専門家を活用するのをおすすめします。
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経営計画書には、会社の数字・方針・スケジュールはもちろん、「人事評価に関する方針」を記載することで、評価基準を見える化しています。
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執筆者情報
佐藤 義昭 / 株式会社武蔵野 常務取締役
1971年、東京都生まれ。
1990年、武蔵野にアルバイトとして入社、ダスキン事業から新規事業まで経験。
2007年、経営サポート事業本部の本部長を経て2015年11月取締役に就任。
2021年、6月常務取締役に就任。
経営者向けに年間100回以上の講演実績があり、企業文化を強化する経営計画書作成法を伝授。
年に一度行われる社内経営計画書アセスメントの方針作りや、小山昇の実践経営塾の合宿では、経営者向けに経営計画書作成や短期計画作成を支援している。
おもな講演テーマに『経営計画書を作るには』、『手書きによる短期計画作成方法』などがある。
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