更新日:2024/01/29 15:37
経営
事業承継とは?後継者に引き継ぐために必要な基礎知識・成功させるポイントを解説
読了まで約3分
経営者が事業を継続させていく上で後継者不足は大きな課題の一つです。
株式会社帝国データバンクが2023年11月21日に発表した『全国「後継者不在率」動向調査(2023年)』によると、2023年の後継者不在率は53.9%で、コロナ禍以前に比べれば多少改善されているものの、それでも半数以上の企業は後継者がいない状況です。(※)
そこで本記事では、事業継承を成功させるためのポイントを解説します。事業承継に課題を抱えている企業経営者はぜひ参考にして下さい。
※参考:帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」
目次
事業承継とは
事業承継とはどういったものなのか、本章では、「事業承継の目的」と「事業承継に対する経営者の悩みと背景」について解説します。
事業承継の目的
会社が行う事業を現在の経営者から次の経営者に引き継ぐことを事業継承と呼びます。
現在の経営者が事業を辞める場合、事業承継をしなければ廃業するしかありませんが、事業承継を行うと、現在の事業を辞めることなく、経営権や資産に加え、経営者の思いや理念、企業文化なども滞りなく引き継ぐことができるので、取引先やお客様との関係性を維持させたまま、会社を存続させることが可能です。
事業承継に対する経営者の悩みと背景
現在、多くの中小企業で経営者の高齢化が進んでいます。2023年3月23日に日本政策金融公庫総合研究所が発表した「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)」によると2023年1月時点での経営者の平均年齢は62.33歳でした。
年齢の構成比で見ても、60代以上が88.9%で、2004年の同調査では60代以上が58.0%だったことから、この20年で30%以上も増えていることが明らかにされています。
また同調査では、廃業を予定している企業の廃業理由も聞いており、それによると、後継者難による廃業と答えた割合は28.4%を占め、経営者の約3.5人に1人は後継者がいないことが廃業の理由だと答えています。(※)
※参考:日本政策金融公庫総合研究所
「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)」
事業承継で引き継ぐもの
事業承継で引き継ぐことができるのは次の3つです。本章では、それぞれについて詳しく解説します。
- 経営(人)
- 資産
- 知的資産
経営(人)の承継
経営(人)の承継とは、経営権の承継を指すものです。現在の経営から大きな損失を生み出すことなく事業承継を行うには、誰にどのタイミングで経営権の承継を行うかが重要なポイントです。
身内だけにこだわらず、第三者も選択肢として検討を進めることが重要です。
資産の承継
資産の承継とは、現在の経営者が次の経営者に対し、事業を継続する上で必要な設備や不動産の他、株式や現金預金、貸付金、借入金など財産の承継を指します。
資産の承継には、贈与税や相続税がかかるものもあるため、承継の時期については税理士や財務担当者と相談の上、適切に決めることが大切です。
また、事業承継をした際に後継者が取得した一定の資産についても、贈与税や相続税の納税を猶予する、事業承継税制についても確認しておくことをおすすめします。
知的資産の承継
知的資産の承継とは、人材や情報、技術、技能、特許、ブランドなどの無形資産の承継を指すものです。他にも経営理念や企業文化、お客様や取引先、協力会社などとのネットワークの承継も含まれます。
知的資産を承継するポイントは、前述した人材や情報、技能などそれぞれの資産が持つ価値を正しく伝えることです。ただし、知的資産は適切に活用しなければ、価値を失くしてしまう可能性もあります。そのため、まずは現経営者が自社にどのような強みや価値があるのかを正しく認識した上で、後継者に共有していくことが必要です。
事業承継3つの方法
事業承継を行う方法は、経営者の親族に承継する「親族内承継」、従業員から後継者を指名して承継する「従業員承継」、第三者の企業に承継する「M&A」の3つです。本章では、それぞれの概要について解説します。
1.親族内承継
現在の経営者の親族に事業を承継させることを親族内承継と呼びます。親族内承継を行うメリットは、これまでも同じ形で承継されていた場合、早い段階から後継者として指名し、経営人材の育成を行える点が挙げられます。デメリットは、親族だからといって必ずしも経営者に適任とは限らない点です。
従来、日本で事業承継といえば親族内承継が一般的でした。しかし、最近では減少傾向にあり、2023年11月21日に株式会社帝国データバンクが発表した「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」によると、親族内承継は33.1%で従業員承継の35.5%よりも少なくなっています。(※)
※参考:株式会社帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」
2.従業員承継
従業員承継とは、親族以外の従業員に事業を承継するもので、前述したように現在では最も多い承継の方法です。
従業員に事業を承継するメリットは、経営者としての資質や適性をしっかりと見極めた上で承継を行える点にあります。自社の事業はもちろん、企業理念や文化も把握している人材を後継者として指名することで安心して承継できるでしょう。
従業員承継のデメリットは、後継者候補に株式を取得する資金力がない場合がある点や適任者が見つからない可能性がある点です。
また、現経営者による自社への借入金がある場合の個人債務保証にも注意しなくてはなりません。そのまま引き継いだとしても、後継者の負担になるだけではなく、引き継ぎ後の経営者が連帯保証人となる可能性もあるため、承継時に債務の解除ができないかどうかを金融機関に相談しておく必要があります。
3.M&A(第三者への承継)
M&Aとは、Mergers & Acquisitionsの略称で、親族や従業員以外の第三者へ会社を売却することで事業を承継することです。後継者不足やM&A専門の仲介会社の増加などもあり、前出の調査では、2022年の18.6%から2023年は20.3%と増加しています。(※)
※参考:株式会社帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」
M&Aのメリットは、親族や従業員に適任者がいない場合、広く外部から後継者を探せる点です。また、適切なM&A先を選定すれば、企業の売却により創業者利益を得られます。
デメリットとしては、希望のM&A先が見つからない場合がある点、見つかった場合でも経営方針がM&A先に委ねられてしまうため経営方針が変わってしまう場合がある点です。他にも企業文化やシステムの統合に時間がかかる点、取引先やお客様、株主など利害関係者に対する十分な説明が必要な点もデメリットといえます。
事業承継の流れと進め方
事業承継をスムーズに進めるには、できるだけ早い段階から準備に着手する必要があります。親族や従業員で事業内容や社内文化などを熟知していたとしても、経営者としての資質があるとは限りません。育成計画を立て早期から進めていくことが重要です。
本章では、事業承継を行う流れを次の3つの視点から解説します。
- 現状の把握と経営改善を行う
- 事業承継計画の策定・M&Aのマッチングを図る
- 事業承継・M&Aの実行
1.現状の把握と経営改善を行う
事業承継で最初に行うのは現状把握と経営改善です。現状に問題がある企業では事業を引き継ぎたいと考える後継者は現れず、事業承継が実現しません。
決算書を確認した上で採算性の低い業務のプロセスを可視化させ、経営状況と経営課題を見いだす必要があるでしょう。
そして、M&Aも含め次の経営者にスムーズに事業を承継させるため、課題点の改善が可能な場合は人材や資産などの経営資源を投入し、速やかに改善を行います。改善が難しい場合は、早急に課題がある部署や業務の譲渡もしくは廃止の判断を行い、経営課題の解決を進めましょう。
2.事業承継計画の策定・M&Aのマッチングを図る
現状把握と経営改善を行ったら、次は事業承継計画の策定もしくはM&Aの相手を探します。
親族や従業員へ事業承継を行う場合、経営者だけで計画書を策定するのは時間や手間がかかり困難です。早期に後継者を指名し、後継者や役員、外部専門家などと計画書の策定を行いましょう。
計画書策定のポイントは、期限を明確にすることです。設定した期限の中で誰に何をどうやって承継するかを明確に記載すれば、何をすべきかが見えてきます。具体的には、中長期的な経営方針や目標を設定し、それに沿ってスケジュールを決めていくと良いでしょう。
M&Aの相手を探す場合は、M&Aを専門的に扱う仲介会社に委託するのが一般的です。相手に求める条件を挙げ、仲介会社と相談しながらマッチングする相手を見つけ出します。
3.事業承継・M&Aの実行
親族や従業員に事業を承継させる場合は事業承継の計画書に沿って承継を行います。第三者へ承継する場合は、M&A先を見つけ実行しましょう。
なお、親族や従業員への事業承継は、計画から実行まで5〜10年程度かかるのが一般的です。そのため、事業承継をするのであれば、少しでも早くから計画を立てなければなりません。
これに対しM&Aは既に経営経験のある企業へ事業を譲渡する形のため、M&A先さえ見つかれば数ヶ月で承継させることが可能です。とにかく早く承継したいのであれば、M&Aの実行を検討すると良いでしょう。
中小企業が事業承継を成功させるポイント
中小企業が事業承継を成功させるには、贈与税や相続税など承継にかかる税負担を理解し、後継者の育成ポイントを押さえて計画的に準備を進めていくことが重要です。本章では、中小企業が事業継承を成功させるポイントを詳しく解説します。
1.税制・補助金を活用する
事業承継を行う際に課題となるのが贈与税や相続税などの税負担でしょう。そこで、後継者はいるが税金を払うキャッシュがない場合に活用できるのが事業承継税制です。一定の条件を満たせば承継される株式にかかる税の100%が納税猶予されます。(※)
※参考:国税庁「法人版事業承継税制」
また、事業承継を契機に事業再編や統合などを計画している中小企業を支援する事業承継・引継ぎ補助金では、目的によりさまざまな補助金を受け取れます。時期によって内容が異なる場合もあるため、詳しくは事業承継・引継ぎ補助金事務局のWebサイトを確認して下さい。
2.後継者の育成は計画的に行う
事業承継の場合、後継者の育成は時間をかけて計画的に行っていくことが求められます。育成に必要なポイントは以下の通りです。
- 複数の部署で職務経験を積ませる
- 関連会社や取引先もしくはまったく関連のない会社など社外での経験を積ませる
- 現在の経営者が直接指導する
- 早い段階で社内外に紹介して理解を求め、協力体制を確立する
従業員として高いスキルを持っていても、経営者としてのスキルは新たに身につけていく必要があります。そのため、現経営者が自ら指導するのに加え、早い段階で周知を行い、周囲の協力を得ながら進めていくことが重要です。
3.専門家にアドバイスをもらう
外部の専門家にアドバイスをもらうのも効果的です。
事業承継についてのアドバイスを求める場合は、地元の金融機関や公的機関、弁護士や会計士などに相談できます。M&Aに関するアドバイスはM&A専門の仲介会社やマッチングサイトに相談すると良いでしょう。
事業承継について悩みや疑問がある場合は、経営コンサルタントへの相談もおすすめです。事業承継の検討を始めるタイミングや、経営課題の発見を行うタイミングで客観的なアドバイスを得られれば、その後の計画もスムーズに進められます。
事業承継の課題解決にも武蔵野の経営計画書の活用がおすすめ
事業承継とは、会社が行う事業を現在の経営者から次の経営者に引き継ぐことです。事業承継の相手は、親族、従業員、第三者の3つに分けられます。どの方法を選択するにしても大切なのは現状の経営状況を適切に把握した上で課題があれば改善し、誰もが承継したいと思える会社にすることでしょう。
また、後継者に事業を承継できたとしても、後継者の理解や能力が不足しているなど、育成に関する課題を抱えるケースは少なくありません。そこで、課題解決の第一歩としておすすめなのが経営計画書の活用です。
経営計画書には、会社の方針や経営目標、お客様や営業の対応について書いているため事業部内での教育に活用されています。経営計画書を活用すれば、経営者の姿勢や思いを言葉として伝えることが可能です。社員も経営に参画している意識が芽生えることで、後継者就任の動機付けにもなるため、事業承継に欠かせない施策といえるでしょう。
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執筆者情報
小山 昇 / 株式会社武蔵野 代表取締役社長
1948年、山梨県に生まれ、東京経済大学卒業。
1977年、株式会社ベリーを設立し社長に就任。
1989年、現職に就任。
1990年、株式会社ダスキンの顧問に就任。
1992年、顧問を退任し現在に至る。
全国の経営者でつくる「経営研究会」主催。
株式会社武蔵野は2000年日本経営品質賞、2010年国内初日本経営品質賞2度目の受賞。
現在パートナー会員750社以上の会員企業をアドバイス。
日本経営品質賞受賞の軌跡、中小企業のIT戦略、実践経営塾、実践幹部塾と、全国で年間1900回以上のセミナーを行っており、訪問社数も年間約120社を超える。
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