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武蔵野コラム

更新日:2023/06/15 15:10

経営

資金繰り

人件費率の計算方法は?労働分配率との違いや適切な算出方法など詳しく解説

読了まで約5分

一般的に会社経費の多くを占める人件費ですが、自社の経営にどのような影響を与えているのかを知るうえで必ず把握しておくべき指標といえるでしょう。

本記事では、人件費率の算出方法や労働分配率との違いを見たうえで、一人当たりの売上率を明確にする指標や人件費率と労働分配率を適正にするための方法などを解説します。

人件費とは

人件費とは、人の労働に関わることで発生するすべての費用を指すものです。
給料はもちろん、賞与や役員報酬、法定福利費、福利厚生費、採用コスト、退職金なども人件費に含まれます。

また人件費率とは、人件費を基に算出する経営指標の一つです。

 

人件費率の算出方法と適正な求め方

人件費率は、売上高に対し人件費がどれだけかかっているのかを見るための指標で、会社の利益を見る際には必ず算出すべき数字です。
ここでは「人件費率の計算式と方法」「人件費率の適正な求め方」に加え、業種別の適正な人件費率の基準を解説します。

人件費率の計算式と方法

人件費率の計算は、売上高を基準とする「売上人件費率」と売上高総利益を基準とした「売上高総利益人件費率」の2種類です。
ここでは、売上高を基準とした売上人件費率の計算式を紹介します。

【計算式】売上人件費率(%)=(人件費÷売上)×100


たとえば、人件費が1,000万円で売上高が1億円の場合の売上高人件費率は、



(10,000,000÷100,000,000)×100=10 となり、人件費率は10%です。

人件費にはどのようなものかについては、以下のとおりとなります。

  • 給与
    正社員にアルバイトやパートも含め、基本給以外に職能給や役職手当、通勤手当、残業手当、住宅手当などすべての手当も給与です。
  • 賞与
    ボーナス、期末手当など給与以外に臨時で支払われる給与です。
  • 役員報酬
    自社の役員にのみ支払われる給与の中で、定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与のいずれかに該当するものです。
  • 法定福利費
    健康保険や厚生年金保険、雇用保険など会社が負担する労働保険料です。
  • 福利厚生費
    健康診断にかかる費用のほか、レジャー施設や宿泊施設の利用代金補助、社員旅行費用、社員研修費用などです。
  • 退職金
    会社から支払われる退職一時金や、企業年金制度から支払われる退職年金が該当します。

人件費率の適正な求め方

人件費を経営指標として見た場合にわかるのは「事業における人件費の割合は適切か負担となっていないか」「従業員へ十分な還元が適正か不足していないか」の2点です。
人件費が高い場合、会社の負担割合は多くなりますが、従業員にとっては満足度が高くなる傾向にあります。
逆に人件費が低い場合、会社の負担は減りますが、従業員への還元が適正ではなくなってしまう可能性があるといえるでしょう。

会社の負担を減らし健全な経営を目指すには、人件費を低く抑えればよいかといえば必ずしもそうとはいえません。
人件費が低く抑えられれば従業員への還元が十分ではなくなるため、モチベーション低下が商品・サービスの質低下を招き、離職率の増加につながるリスクも生じます。
また、離職率が増加すれば会社の評判が落ちる可能性もあり、優秀な人材確保が難しくなるなど結果として健全な経営に悪影響を及ぼしてしまうかもしれません。
経営者としては、従業員のモチベーションを高めつつ、会社として負担が大きくなり過ぎないよう適正な人件費率を目指す必要があります。

【業種別】適正な人件費率の基準は?

経営者として適正な人件費率を目指すとしても、基準がわからないと適正かどうかの判断もできません。
そこで、中小企業庁が発表している「中小企業の経営指標(概要)〜中小企業経営調査結果〜」から、業種別人件費率の基準を紹介します。

卸売業:5~20%程度
小売業:10~30%程度
飲食業:30~40%程度
サービス業:40~60%程度(パチンコ店5%程度、訪問介護などは60%以上)
建設業:15~30%程度
旅館業:30~40%程度
製造業:10~50%程度(製造するものによって大きく異なる)
出典:経済産業省「調査の結果」

上記のように、業種によって適正な人件費は大きく異なります。
また、同じ業種であっても、パチンコ店と訪問介護のように55%も基準が異なるケースもありえるため、基準値として参考にしつつ自社の現状を見極めての判断が重要です。

 

人件費の状態を判断する労働分配率

人件費率以外に人の労働に関わることで発生する費用から、経営状態を見る方法として挙げられるのが労働分配率です。
ここでは労働分配率の概要や人件費率との違い算出方法、労働分配率の業種別基準について解説します。

労働分配率とは?

労働分配率とは、財務分析に使われる指標で付加価値額に対する人件費の割合を算出したものです。
人件費率は売上高を基準として算出しているのに対し、労働分配率は純粋な利益を基準として算出します。
この点が大きな違いで、会社で得た利益をどれだけ従業員に分配しているかを見る際に使う指標が労働分配率です。

労働分配率の算出方法

労働分配率の算出方法は以下のとおりです。

労働分配率(%)=(人件費÷付加価値額)×100


たとえば、人件費が1,000万円で付加価値額が2,500万円の場合は労働分配率は40%となります。


(10,000,000÷25,000,000)×100=40


付加価値額とは、会社が得る利益を指すものです。


簡単にいえば原価5,000円の商品を6,000円で販売した場合、1,000円が付加価値額となります。

 

ただし、実際は付加価値額を算出する方法は複雑で、中小企業方式と呼ばれる控除法と呼ばれる加算法の2種類があり、それぞれの計算式は次のとおりです。


控除法:付加価値=売上高-外部購入価値(材料費、運送費、外注加工費など)


加算法:付加価値=経常利益(本業以外も含めた事業全体から得た利益)+人件費+賃貸料+減価償却費+金融費用+租税公課

どちらの方法を使うかは会社によって異なりますが、一般的に使われているのは加算法です。

労働分配率について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
【労働分配率について解説】利益と人件費のバランスを知ろう【経営/財務】

【業種別】労働分配率の基準

労働分配率の基準について、経済産業省が発表している「平成30年企業活動基本調査速報」の産業別労働分配率を基に見ていきましょう。

業種:労働分配率の基準
製造業:46.0%
卸売業:46.6%
小売業:49.2%
出典:2022年企業活動基本調査速報−2021年度実績-

主に3つの業種ですが、労働分配率はどれも45〜50%とほぼ同じです。
ただし、注意しなくてはならないのは、労働分配率の基準は人件費率ほど参考にはならない点です。

たとえば、大企業と中小企業では減価償却費は大きく異なります。
材料費も大量仕入れが可能な大企業と小ロットでしか仕入ができない企業では同じ材料でも仕入れ値は同じではありません。
労働分配率の基準はあくまでも目安程度として考えるとよいでしょう。

 

一人当たりの売上率を明確にする指標

人件費率や労働分配率が適正な人件費を判断する指標になると解説してきましたが、具体的な改善策を発見するには、従業員一人当たりの成果を明らかにするのがおすすめです。
ここでは、一人当たりの成果を明確にする指標として「一人当たり売上高」「一人当たり付加価値」「一人当たり経常利益」「一人当たり人件費」の4つを解説します。

一人当たり売上高

一人当たり売上高とは、従業員一人当たりで生み出す売上高を見る指標です。
従業員を有効に活用できているか、会社としての効率化がなされているかどうかを判断する材料の一つとして機能します。

【計算式】一人当たりの売上高(円)=売上高÷従業員
 たとえば、売上高が1千万円で従業員数が20人の場合、「10,000,000÷20=500,000」となるため、一人当たり売上高は50万円です。

上記は、会社全体の指標ですが、プロジェクトごとや部署ごとで算出すれば改善点の発見がよりしやすくなるでしょう。

一人当たり付加価値(労働生産性)

一人当たりの付加価値とは、従業員一人当たりで生み出す粗利益を見る指標です。
会社の労働生産性をもっとも簡単に把握するのに役立ちます。

【計算式】一人当たり付加価値(円)=付加価値÷従業員数
 たとえば、付加価値の額が300万円で従業員数が20人の場合「3,000,000÷20=150,000」となり、一人当たり付加価値は15万円です。

一人当たり経常利益

一人当たり経常利益とは、従業員一人当たりで生み出す経常利益を見る指標です。
営業活動や財務活動から一人当たりどのぐらいの利益を生み出しているかがわかり、財務分析をする際に役立ちます。

【計算式】一人当たり経常利益(円)=経常利益÷従業員数
 たとえば、経常利益が600万円で従業員数が20人の場合「6,000,000÷20=300,000」となり一人当たりの経常利益は30万円です。

一人当たり人件費

一人当たり人件費とは、会社が従業員一人当たりにどれだけの人件費をかけているのかを見る指標です。
付加価値に対して一人当たり人件費が高いと経営が圧迫されることになるため、付加価値とのバランスを見るのに役立ちます。

【計算式】一人当たり人件費(円)=人件費÷従業員数
 たとえば、人件費が400万円で従業員数が20人の場合「4,000,000÷20=200,000」となるため、一人当たり人件費は20万円です。

 

人件費率や労働分配率を適切にする方法

人件費率や労働分配率を適切にし、安定した経営をおこなうのに大切なのは売上高や付加価値の向上です。
会社にとって欠かせない「ヒト・モノ・カネ」の中でも、特に重要な経営資源である「ヒト」を活用するには、「モノ」の価値を高めることが重要です。
ここでは、具体的に売上高や付加価値を上げる方法について解説します。

売上高や付加価値を上げる

売上高を上げるのには、商品やサービスに高い付加価値を持たせ、売上総利益(粗利益)の向上を狙う必要があります。
具体的には、優良顧客に対して展示会招待や新商品の先行販売、商品やサービスの無料アップデートなどを行うロイヤリティプログラムがおすすめです。

すべての顧客にサービスを提供するよりも、自社に多くの利益をもたらせてくれる優良顧客に絞ってサービスを提供した方が商品価値を下げずに粗利益向上がしやすくなります。
また、仕入ロットを増やす、仕入先を変えるなどによる材料費の見直しや製造、仕入工程の改善も効果的です。
原価の見直しや改善により、人件費を抑えなくても結果として人件費率や労働分配率を高められるようになるでしょう。

 

人件費を削減する方法

人員の削減

人員を削減することは人件費削減に直結します。
しかし安易にリストラを行うことは、会社の評判やイメージが下がりかねないので注意が必要です。

業務の一部を外部企業に委託するアウトソーシングを行ったり、リモートワークやフレックスタイム制度などを導入し、上手に人件費を削減しましょう。

業務の効率化

業務の自動化により作業にかかる時間を短縮することで、人件費を減らすことができます。

業務効率化が進めば生産性が上がって売上高が増え、無駄な残業代も減ります。

無駄な業務をなくすことや、できるだけアウトソーシングして環境を見直すことで、効率化を進めることができます。
結果、従業員満足度も上がり、モチベーションアップや離職率低下にもつながります。

パフォーマンスの向上

従業員の教育を行いパフォーマンスを向上させることで、生産性が上がり、同じ作業を行うために必要な人員を減らすことができます。

職場環境を整え、従業員のパフォーマンスを定期的に評価することで、従業員はモチベーションを維持し生産性を高めることができます。
上司や同僚とのコミュニケーション活性化を促すことで、より生産性を向上させることが可能です。

 

人件費や労働分配率を意識した経営分析を行おう

健全で安定した経営を実現するには、従業員である「ヒト」を重視する必要があります。
そして、人の労働に関わるすべての費用が人件費であり、人件費を基に算出する経営指標が人件費率や労働分配率です。
人件費率や労働分配率をしっかりと把握していれば、経営資源である「カネ」をどこに集中させるべきかも明確になり、健全で安定した経営の実現に大きく貢献するでしょう。

ただし、適切な人件費率や労働分配率を実現したとしても、会社としての目標やビジョンが明確になっていないとゴールの共有ができず、社員のモチベーションも下がってしまうでしょう。
そこで、人件費率や労働分配率の適正化とともに重要なポイントは、経営計画の策定です。

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  • 人件費率の計算式は?

    売上人件費率(%)=(人件費÷売上)×100
    詳しくはこちらをご覧ください。

  • 一人当たりの成果を明確にする指標とは?

    「一人当たり売上高」「一人当たり付加価値」「一人当たり経常利益」「一人当たり人件費」の4つを解説します。
    詳しくはこちらをご覧ください。

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