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MUSASHINO COLUMN

武蔵野コラム

更新日:2024/01/29 15:42

経営

人材育成

人的資本経営とは?注目されている理由や企業に求められる課題など分かりやすく解説

読了まで約4分

「人的資本経営」という経営モデルに注目が集まっています。しかし、人的資本経営という言葉は聞いたことがあるものの、具体的な意味や背景、動向や課題まで理解している人は少数かもしれません。

そこで本記事では、人的資本経営の概要を説明した後、人的資本経営が注目される理由・背景、国内における人的資本経営に関する動向、企業に求められる課題について解説していきます。

人的資本経営とは?

人的資本経営とは、人材を資本として捉えた経営モデルのことです。ここでは、人的資本経営の詳しい意味と従来の経営モデルとの違いについて解説します。

人的資本経営の意味

人的資本経営は人材を資源ではなく資本として位置づけ、その価値の最大化によって中長期的な企業価値の向上を促進する経営方法です。

これまで人材は資源として考えられ、育成や教育にかかる費用はコストとみなされていました。一方、人的資本経営では人材を投資とみなし、人材への投資によって価値を最大限に引き出すアプローチが採用されています。

人的資本とは経験、スキル、意欲などの無形資産のことで、企業の成長性にかかわる大切な指標のため、投資家のようなステークホルダーも重視する傾向にあります。

人的資本経営と従来の経営の違い

人的資本経営と従来の経営モデルの違いには、人材の捉え方があります。前述したように、人的資本経営では人材を投資対象と捉える一方、従来の経営では人材を資源とみなし、効率化や削減を重視する傾向にありました。

また人的資本経営では、企業と人材は対等で、自律的な関係性が前提になっています。一方従来の経営では企業と人材は主従関係で捉えられており、その違いが大きな相違点とも言えるでしょう。

 

人的資本経営が注目される理由・背景

人的資本経営が注目される主な理由・背景として以下が挙げられます。

  • 人材登用や働き方の多様性
  • 無形資産(人的資本)に対する重要性の向上
  • ESGを評価するステークホルダーの増加

それぞれ解説するので、人的資本経営を考える上での参考にして下さい。

人材登用や働き方の多様性

シニア層や海外からの移住者など、多様な人材が登用されるようになった背景には、日本の少子高齢化が挙げられます。人手不足を補うために多様な人材が採用されるようになり、異なる視点やスキルを持つ「個」が尊重される時代に移り変わろうとしています。

また、労働力不足に対応するため、リモートワーク、フレックスタイム制、時短勤務制のような働き方の多様化も注目されています。

このような状況の中、企業には画一的な人材管理ではなく、個々に適した柔軟な働き方が求められており、個人の能力を最大限に発揮できる人的資本経営が注目されるようになりました。

無形資産(人的資本)に対する重要性の向上

無形資産とは、特許権、ブランド価値、ステークホルダーとの関係性、経営プロセスなど、形を持たない資産のことです。前述したように、人材が持つ経験、スキル、意欲、資質も無形資産です。

人的資本において無形資産が重視されている理由には、市場の成熟化による競争優位性の確保が挙げられます。競争優位性を確保するにはイノベーションを創出し、競合他社との差別化を図らなければなりませんが、イノベーションを生み出すのは人材であり、人材が持つ能力や経験などがイノベーションの源泉であるため、人的資本経営が注目されているのです。

また、第3次AIブームによる技術革新も無形資産が重視されている理由の1つです。単純作業や事務作業がAIに代用されつつありますが、その一方で人間にしかできないクリエイティブな仕事に注目が集まっています。

クリエイティブな仕事を行うには、人材が高度なスキル(無形資産)を身に付ける必要があるため、人的資本経営の実施が効果的です。

ESGを評価するステークホルダーの増加

ESGは企業経営や発展において、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)などからの配慮が不可欠だとするアプローチ方法です。

ESGが重要視される理由として、ステークホルダーからの信頼が挙げられます。

投資家のようなステークホルダーは、「短期的ではなく、長期的な企業発展が期待できる」という理由から、財務諸表上の数字だけでなく、ESGによる持続的な価値向上を重視する傾向にあります。

ESGのうち、特に重要視されているのがSocial(社会)で、Social(社会)は人的資本に含まれるため、人的資本経営が注目されることへとつながりました。

 

国内における人的資本経営に関する動向

ここでは、国内における人的資本経営に関する動向として以下を紹介します。

  • 『人材版伊藤レポート』の公表
  • 『人的資本可視化指針』の策定
  • 『人的資本経営コンソーシアム』の設立
  • 『人的資本の情報開示』の義務化

『人材版伊藤レポート』の公表

人材版伊藤レポートとは、経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」が2020年9月に公表した資料で、会計学者の伊藤邦雄氏が座長を務めています。

内容としては、「人材育成・社内環境整備などを進めるアイデア」「実践で目指す内容」「企業価値向上へのつなげ方」が具体的に提示されています。

人材版伊藤レポートの公表後、人的資本経営の重要性が企業で認識されつつあり、投資家も非財務情報に注目し始めています。

なお、2022年5月には、改訂版の人材版伊藤レポート2.0が発表されました。(※)
※参考:「経済産業省|人材版伊藤レポート2.0」

『人的資本可視化指針』の策定

人的資本可視化指針とは、2022年8月に内閣官房の「非財務情報可視化研究会」が策定した人的資本の開示に関する方針です。

人的資本可視化指針の内容として、企業の競争力につながる「自社固有の戦略やビジネスモデルに沿った独自性」と、投資家の判断に必要な「他社との比較可能性」のバランスが提示されています。

また、人的資本可視化指針では、企業に対して「経営戦略に合わせた人材イメージの設定、および人材採用、育成、成果モニタリングの指標」、投資家に対しては「非財務情報として人的資本を可視化するフレームワーク」が期待されています。(※)
※参考:内閣官房|人的資本可視化指針

『人的資本経営コンソーシアム』の設立

企業価値向上に人的資本経営を活かすには、投資家に適切な情報を提供し、評価を得ることが不可欠です。その際に生じる「情報の可視化」という課題に対応するため、2022年8月25日に人的資本経営コンソーシアムが設立されました。

人的資本経営コンソーシアムの具体的な内容として、「人的資本経営の先進事例の共有」「企業間協力に向けた議論」「効果的な情報開示の検討」があります。(※)

設立における発起人は、前述した伊藤邦雄氏、キリンホールディングスの磯崎功典氏、リクルートの北村吉弘氏などの7人です。
参考:経済産業省|人的資本経営コンソーシアム

『人的資本の情報開示』の義務化

2023年1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正されたことにより、2023年3月期の有価証券報告書から人的資本の開示が義務になりました。

企業が有価証券報告書と有価証券届出書を作成する際は、サステナビリティに関する取り組みを記載する欄を新設した上で「人的資本に関する情報の記載」が求められます。女性活躍推進法などに基づく指標を公開している場合も記載が必要です。

人的資本経営の開示に記載すべき内容は、19項目7分野のうちの「人的資本」「多様性」です。詳細は以下のページでご確認下さい。(※)
参考:金融庁|「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について

 

人的資本経営の取り組みで企業に求められる課題

人的資本経営の取り組みで企業に求められる課題には以下があります。

  1. 多様な人材の受け入れ体制を整える
  2. リスキングの制度を整える
  3. 多様な働き方ができる環境を整える
  4. 経営層と従業員の関係性を高める

1.多様な人材の受け入れ体制を整える

人的資本経営で多様な人材を受け入れるべき理由として、企業の持続的な発展があります。企業が持続的に発展するには、ただ人材を採用して終わりではなく、受け入れるための適切な仕組みづくりが必要です。

受け入れ体制を整える具体的な方法として、現場で働く従業員の理解、多様性を考慮した評価制度の導入、多様性を最大限に発揮できる適材適所の配置などがあります。

2.リスキングの制度を整える

人的資本経営でリスキリング(スキルの獲得)や学び直しの体制が求められる理由には、既存人材の育成が挙げられます。労働人口の減少によって新規採用の人材獲得競争が激化しているため、既存の従業員を育てる重要性が高まっていると言えるでしょう。

現在は個人の価値観が多様化しています。そのような多様化を背景として、企業がリスキリングや学び直しの制度を整えることにより、個々の従業員に合わせたキャリアパスへの対応が可能で、その結果、エンゲージメントや定着率の向上が期待できます。

3.多様な働き方ができる環境を整える

人的資本経営を実現するには、感染症や自然災害が発生しても安全に働ける環境が求められます。そのための方法として挙げられるのは、リモートワーク、フレックスタイム制、時短勤務などです。ただし、それらの制度を単に導入するだけでなく、気軽に利用できる環境づくりが大切です。

多様な働き方を整備するための課題には、評価基準の整備、業務の適切な振り分け、社員のスキル向上があります。課題を解決するには、人事部門の積極的な取り組みがポイントです。

4.経営層と従業員の関係性を高める

経営層と従業員のコミュニケーションの活性化は、伊藤レポートで指摘されている企業文化の確立において不可欠な要素です。経営層、人事、従業員が孤立すると、組織内に企業文化が浸透しづらくなります。

人事部門は中立性を活かして経営層と従業員の間に入り、組織内のコミュニケーションを円滑にする役割が期待されています。

 

人的資本経営を実現し将来を見据えた経営戦略を目指そう

人的資本経営とは人材を資源ではなく、資本と捉えた経営方法です。

人的資本経営が注目されている主な理由として、人材登用や働き方の多様性、無形資産に対する重要性の向上、ESGを評価するステークホルダーの増加があります。

また、国内における人的資本経営に関する動向には、『人材版伊藤レポート』『人的資本可視化指針』『人的資本経営コンソーシアム』『人的資本の情報開示』が挙げられます。

企業に求められる課題は、多様な人材の受け入れ体制の整備、リスキング制度の構築、多様な働き方ができる環境の整備、経営層と従業員の関係性の向上です。

人的資本経営を実践するには、経営者としてブレない軸をつくり、従業員に伝えていくことが大切なので、そのために役立つツールとして「経営計画書」をご活用下さい。

「経営計画書」は会社の数字、方針、スケジュールをまとめた手帳型のルールブックです。経営者の思いや考え方を従業員に言葉で伝え、会社(=社長)の価値観を浸透させることにより、社員教育が見込めるでしょう。さらに従業員は「経営に参画している」という意識も芽生えやすくなります。

無料で試せるフォーマットをご用意していますので、以下よりダウンロードして下さい。

執筆者情報

執筆者の写真

佐藤 義昭 / 株式会社武蔵野 常務取締役

1971年、東京都生まれ。
1990年、武蔵野にアルバイトとして入社、ダスキン事業から新規事業まで経験。
2007年、経営サポート事業本部の本部長を経て2015年11月取締役に就任。
2021年、6月常務取締役に就任。

経営者向けに年間100回以上の講演実績があり、企業文化を強化する経営計画書作成法を伝授。
年に一度行われる社内経営計画書アセスメントの方針作りや、小山昇の実践経営塾の合宿では、経営者向けに経営計画書作成や短期計画作成を支援している。
おもな講演テーマに『経営計画書を作るには』、『手書きによる短期計画作成方法』などがある。

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