更新日:2023/08/22 10:30
経営
PEST分析とは?やり方や注意点・環境分析のフレームワークをわかりやすく解説
読了まで約5分
「PEST分析について知りたい」「PEST分析のやり方や注意点を把握したい」と考えている企業経営者も多いのではないでしょうか。
政治、経済、社会、技術の変化は事業戦略に大きな影響を及ぼす可能性があります。
この4つの要因から自社の外部環境を分析し、変化し続ける環境へ適応していくための事業戦略・事業戦略策定に活かすフレームワークがPEST分析です。
本記事では、PEST分析の概要と目的、4つの外部環境、やり方と手順、注意点、PEST分析以外の外部分析について解説します。
目次
PEST分析とは
PEST分析とは、政治的要因(Politics)経済的要因(Economy)社会的要因(Society)技術的要因(Technology)の4つの要因をもとに、自社の外部環境を分析するフレームワークです。
まずはPEST分析の目的や外部環境の分類について解説します。
PEST分析の目的
PEST分析は、外部環境(マクロ環境)を把握することで、自社へのフィードバックを図る方法の一つです。
主に事業戦略を策定する際に活用されます。
外部環境にはマクロ環境とミクロ環境がありますが、人口統計や政治社会のようなマクロ環境は自社に間接的な影響があり、市場規模や顧客動向のようなミクロ環境は自社に直接的な影響があると考えられています。
ミクロ環境を分析する際は、後述する5フォース分析と3C分析が役立ちますが、マクロ環境の分析にはPEST分析が効果的です。
提唱者はマーケティングの第一人者
PEST分析の提唱者は、アメリカの経営学者でマーケティングの第一人者として日本でも知名度が高いフィリップ・コトラー氏です。
コトラー氏は自著『コトラーの戦略的マーケティング』において「調査をせずに市場参入を試みるのは、目が見えないのに市場参入をしようとするようなもの」と発言し、環境分析の重要性を述べています。
PEST分析における4つの外部環境とは?
PEST分析の4つの外部環境であるPolitics(政治的)Economy(経済的)Society(社会的)Technology(技術的)についてそれぞれ解説します。
Politics(政治的)
Politics(政治的環境)の変化によって市場のルールが大きく変わる可能性があります。
また、Politics(政治的環境)の具体例としては、以下のような項目が挙げられます。
- 法律改正(規制強化と緩和)
- 条例改正
- 税制度の改正
- 政権交代
- 政治団体のデモ
上記のような政治的な影響は、民間企業1社で対抗できるものではありません。
政権交代や法律改正によって規制が厳しくなれば、市場そのものがシュリンクする懸念があり、逆に規制緩和で市場が拡大する可能性もあるのです。
また、税改正によって増税や減税が行われると企業のビジネスに大きな影響を与える可能性があります。
Economy(経済的)
Economy(経済的)は企業のマーケティング活動に影響を与える要因です。
Economy(経済的)の具体例としては、以下のような項目があります。
- 経済成長率
- 為替、株価、金利、原油価格
- 物価(インフレ、デフレ)
- 景気動向、個人消費
- 経済状況
経済的な影響により、企業は商品・サービスの売上が大きく変わります。
過去にはバブルの崩壊やリーマン・ショックでダメージを受けた企業が多数あります。
また、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大はビジネスに大きな影響を与えています。
ビジネスチャンスをつかみ、リスクを最小限に抑えるためにも、経済の動向を長期スパンで予測しておくことが大切です。
Society(社会的)
Society(社会的)は消費者のライフスタイルや需要構造に影響を与える要因です。
具体例としては以下のような項目が挙げられます。
- 人口動態、人口密度
- 少子化、高齢化
- 核家族化など世帯構成の変化
- 世論、流行
- 宗教、教育、言葉
- 文化、トレンド
- 生活習慣、ライフスタイル、健康
- 自然環境
上記のうち、日本では少子高齢化が問題になっています。
少子高齢化は企業ビジネスにおいて、さまざまな変化をもたらせています。
また、インターネットやスマートフォンが普及したことで、消費者の生活スタイルが大きく変化したことも社会的な要因の一つです。
企業を成功に導くには、社会の変化を素早く捉えて商品やサービスを開発するなど迅速に対応する必要があります。
Technology(技術的)
Technology(技術的)は新技術や生産プロセスの変化が企業に与える要因です。
具体例としては、以下のような項目が挙げられます。
- ITインフラの整備
- 新テクノロジーの普及
- イノベーション(技術革新)
- 特許
映像技術の発展によってVHSからDVD、DVDからBlu-rayへと移行し、現代はネット回線の高速化によってオンライン動画配信が普及しています。
それに伴ってレンタルビデオ業界は大幅に規模を縮小していますが、今後は5Gの普及により、社会的なイノベーションが起こる可能性が考えられます。
PEST分析のやり方と手順
PEST分析は集めた情報を事実と解釈、機会と脅威、短期・長期に分類し、事業戦略に反映します。
それぞれのポイントを説明します。
1:情報を集める
最初に自社に関連するマクロな情報を集めます。
国が公開している各種統計、関連業界が発信している情報、新聞報道、専門的な雑誌記事など、信頼性の高い情報を集めることで正確な情報を収集することが大切です。
2:4つの要素に分類する
集めた情報をPEST分析の4要素(政治・経済・社会・技術)に分類します。
どの要素に入れればよいか迷ったときも、深く考え込む必要はありません。
正確な分類よりも自社に影響を与える要因を認識することがPEST分析では重視されるからです。
3:事実と解釈に分類する
PESTに分類した情報を「事実」と「解釈」に分けるフェーズです。
「事実」とは実際に起きた客観的な出来事であり「解釈」とは主観的に理解した内容を指します。
PEST分析で重視するのは「事実」に基づく情報であるため「解釈」の内容が混ざると結果が伴わない可能性が高くなります。
4:機会と脅威に分類する
「事実」に分類した情報を「機会」と「脅威」に振り分けます。
マクロ環境のような外部の変化は、自社にとって「機会」というチャンスに繋がると同時に「脅威」というピンチに直面するリスクもあります。
正確性の高い情報を「機会」と「脅威」に振り分けることで、自社への影響度を予測できるでしょう。
社会全体の影響ではなく、あくまでも「自社にとっての影響」という視点が大切です。
5:短期・長期に分類する
「機会」と「脅威」に振り分けた情報をそれぞれ「短期」「長期」に分類します。
自社にとって短期的に起こる可能性があるのか、それとも長期的に起こるのかという視点です。
時間軸を示すことで、社内メンバーの共通認識を得ることができます。
特に会議の場では、認識にズレがあると議論がスムーズに進まないため注意が必要です。
6:事業戦略に反映する
最後に今までの分析結果を事業戦略やマーケティング戦略に反映します。
この段階で大切なのは「脅威を避けながら機会を明確にして事業モデルの成長を目指す」という視点です。
PEST分析はマーケティング戦略や施策の土台となるものなので、手順に沿って環境要因を分析した後、段階に応じて方向性を明確化してから、STP分析や4P、4C分析などを活用して基本戦略や施策の策定に繋げていくのが良いでしょう。
PEST分析に関する注意点
PEST分析を行う際の注意点として、やり方の事前確認と向き不向きの理解があります。
どちらも大切なポイントとなるため、抑えておくことが大切です。
やり方・手段を確認した上で行う
PEST分析を効率的に進めるには専門的なノウハウと時間が必要です。
正確さやきれいさを重視して取り組むと整理自体に夢中になり、そもそもの目的である「事業戦略に落とし込む」という目的から遠ざかることになりかねません。
情報収集という手段を目的にしないためにも、事前にPEST分析のやり方・手順を理解した上で取り組むことが大切です。
向き不向きを理解しておく
PEST分析は中長期的な事業戦略との相性はよいものの「来月の売上ノルマを達成する」などの短期計画には適さないと考えられています。
また、PEST分析は自社を取り巻く外部環境(主にマクロ環境)の変化が対象なので、内部の環境分析とは相性がよくありません。
内部の環境分析には、後述するSWOT分析の活用が望ましいでしょう。
PEST分析の業界別事例
企業がPEST分析を実際どのように活用しているか、業界別の事例をご紹介します。
自動車業
P(政治):排出規制、交通政策、政府の補助金や助成金。
E(経済):燃料価格の変動、景気循環、消費者の所得水準。
S(社会):環境意識の高まり、都市化の進行、車の所有から共有への移行。
T(技術):自動運転技術、電動車の発展、コネクテッドカーの普及。
食品小売業
P(政治):食品安全規制、輸入規制、貿易政策。
E(経済):物価の変動、消費者の支出パターン、通貨価値の変動。
S(社会):健康志向の増加、ダイエット傾向、エシカル消費の広がり。
T(技術):オンライン食品配達サービス、フードテックの進化、持続可能な供給チェーン技術。
医療業
P(政治):医療規制、医療保険制度、医薬品承認プロセス。
E(経済):医療費の増加、高齢化社会への対応、医療の財源確保。
S(社会):健康意識の高まり、予防医療の重要性、テレメディシンの普及。
T(技術):バイオテクノロジーの進歩、電子健康記録、新薬の開発。
アパレル業
P(政治):緊急事態宣言、外出自粛。
E(経済):来店者数の減少、購買意欲の低下。
S(社会):在宅ワーク需要、オンライン会議の増加。
T(技術):ECの普及。
PEST分析の他に環境分析できるフレームワーク
環境分析の分類には、マクロ環境・ミクロ環境以外に外部環境・内部環境もあります。
PEST分析は外部環境分析におけるマクロ環境の分析です。
それぞれの環境分析に適切な3つのフレームワークについて以下で紹介します。
3C分析
3C分析とは、外部環境の「市場・顧客(Customer)」「競合他社(Competitor)」と内部環境の「自社(Company)」を分析するフレームワークです。
それぞれの頭文字がCなので3C分析といいます。
外部環境の分析では、ミクロ環境とマクロ環境の両方を対象に含めるのが通常です。
3C分析によって「自社の事業の方向性を定めやすくなる」という効果が期待できます。
3C分析についてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
3C分析とは?意味や必要性・やり方・事業戦略に活用するコツを解説
SWOT分析
SWOT分析は、内部環境の「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」と外部環境の「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」を分析するフレームワークです。
名前の由来はそれぞれの頭文字です。
「機会(Opportunity)」と「脅威(Threat)」の外部分析はマクロ環境に左右されます。
SWOT分析によって「自社の強みを活用して弱みを改善し、機会を捉えて脅威を避けるための道筋」を理解しやすくなります。
SWOT分析についてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
SWOT分析とは?分析例・意味や方法・活用目的などを紹介
5フォース分析
5フォース分析は、外部環境の「既存企業同士の競争」「新規参入者」「売り手」「買い手」「代替品」の5つを分析するフレームワークです。
フォースの由来は「競争原因」に基づいています。
通常、外部環境はミクロ環境を指します。
5フォース分析によって「業界内で自社の力が強い」と分かれば高収益が期待できますが、「業界内で自社の力は弱い」という場合は低い収益に留まるでしょう。
その他、経営戦略に役立つフレームワークについて知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
企業の経営戦略に役立つフレームワーク10選!それぞれの強みや弱みとは?
企業施策の土台づくりにPEST分析を活用しよう
PEST分析は4つの外部環境(政治的・経済的・社会的・技術的)を分析するフレームワークです。
一般的な流れは、最初に情報収集した後、事実と解釈、機会と脅威、短期・長期に分類して事業戦略に反映します。
注意点には「やり方の事前確認」と「向き不向きの理解」があります。
また、環境分析の方法には、PEST分析以外に3C分析、SWOT分析、5フォース分析があるため、状況に応じて使い分けることが大切です。
様々な環境分析を押さえることで、経営戦略を計画することができます。
経営戦略は、企業が目標をクリアするための総合的な戦略であり、競合企業との違いを生み出す戦略です。
「自社の経営戦略を強化したい」と考えている経営者は、こちらの記事も参照ください。
経営戦略とは?3つの種類とそれぞれの手法、企業事例をご紹介
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